私んちの婚約者
「ち、違う!落ち着けって」

愁也は慌てて私の両腕を押さえる。
チッ、この厚さ5センチ、ハードカバーの(愁也の)愛読書をお見舞いしてやろうと思ったのに!

「アンタは相変わらず最強装備だな。よく見てから言おうね」

は?
ーー言われて目を落とす。

「この写真の俺、いくつに見える?」

は?


写真の彼は学生服を着てて。

「何よ、どっからどー見ても15、16歳……ん?」

「そう、これ十年前の写真。ちなみにアンタは?」

「しょーがくせー」

愁也と婚約どころか、彼氏って単語すら知らなかった頃だ。
だんだんと冷静になって、私は首を傾げる。
愁也が呆れ顔で箱を示した。

「こっちに引っ越したからって、実家に置きっぱなしだった荷物を親が送って来たんだよ。俺もそんなのとっておいたのすら、忘れてたけど。一応、婚約者殿への礼儀だし?処分しようと思ってたとこなんだけど」

明らかになる勘違いに、私はえへへと苦笑いする。

「そりゃ失礼しました~」

「その手の早さ、どーにかしよーね」

私から愛読書を取り上げた彼は呟いて。
けどニヤリと笑った。

「ヤキモチ、妬いてくれたんだ?」

もう一度私の両腕を掴み直して、彼は私に顔を近づけた。


「いつもの、アレ。使ってみる?
アンタの得意技は?」


問われて私は言葉につまる。
彼自身に言われた、私の得意技。


「……料理と、キス」


ああもう。この無駄なイケメンめ。
今私の顔、真っ赤だ。
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