私んちの婚約者
その頃俺は付き合ってた職場の女と別れたばかりで、どっから聞きつけてきたんだか社内の女性社員達に、連日の告白責めを受けてた。

別にそれまでも二股掛けた事も無いし、日替わり彼女が居たわけでもない。
なのに『一人がダメならみんなと付き合うのはどう?』なんて発言する女まで出てきた。俺をどういう目で見てるんだ。

いちいち処理するのもいい加減面倒になって、“社長令嬢の婚約者”になったってのもある。
その地位に気軽に横入りしてくるような馬鹿は居ないだろうし、まあ一般的には逆玉と言えなくもない。
入社2年でチーフにのし上がった俺には別に必要ないけど。

高宮社長は変なオッサンだが、結構容姿は若いし、社内外問わず「可愛い」とか言われてモテる。20歳近くも年下の女子社員に可愛いとか言われてる時点でどうかと思うが。
亡くなった奥さんも凄い美人だったらしい。ならその娘だって、それなりに容姿は悪くないんだろうな、とその程度に思っていた。



ところが。



引き合わされた高宮梓は、全く社長令嬢らしくない。


確かに容姿は悪くない。というか、口を閉じていれば最高だ。
もいっかい言うけど……黙っていれば、だ。

初対面で鉄拳放ってくるあたりがもう、インパクト強すぎた。

「梓ちゃん、花瓶は止めて!」とか言ってる高宮社長にめまいがしたのは気のせいじゃない。


ガキだわ、口は悪いわ、天然ボケだわ……。
つい、からかいたくなってしまう。

ポンポンと勢い良く怒りながら、いちいち反応を返してくれるからかもしれない。


そうして彼女を知っていくと。

意外にも料理が上手くて、純粋で、自分に正直。
裏表のない、潔さ。


小動物みたいにワタワタする姿は
見てて飽きない。


面白いな、コイツ。


キスしようが一緒に住もうが、いいオモチャを手に入れたな、くらいの感覚だったと思う。
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