私んちの婚約者
「……イタリア?」


ってあれですか、パスタにピザにティラミスの。


心の声が思いっきり漏れていたようで、隣から冷静そのものの男の声が呆れたように言う。

「梓、食べ物ばっかりだな」


うるさい愁也、冷静に突っ込むな!!
美味しいものは世界の宝だ、良いじゃないの!!


「今回イタリアに支社を作ろうとして、視察に行ってたわけ。
かなり具体化したから、この先は愁也君に手伝ってもらいたいな~と思ってさ」


父は相変わらず、まるで明日洗車するから手伝って~、くらいのノリで言う。
この、緊張と無縁のオッサン、社長として大丈夫なんだろうか。

愁也は黙って父の言葉を待っている。


「どのくらい……?」


何故か私が真剣に聞いてしまう。


「ん~まずは三年くらいかなー。できればそのまま支社を任せたいけどね」



それって。


もう帰って来られないかもしれないってこと?


父はお気楽極楽だけど、ビジネスにおいては圧倒的なセンスを発揮する。
ならば愁也の海外赴任もきっと、会社の為には素晴らしい機会なんだろう。

でもその代わりーー日本にはしばらく戻れなくなる。そんなのーー愁也なら知っているはずだ。


茫然とする私を全く気にする様子もなく、愁也は父に頷いた。

「わかりました。日本での仕事もまとめておきます」


えぇ!?
そんなアッサリ、受け入れちゃうの!!?


びっくりした私は、思わず彼を凝視した。


そりゃ、彼にとっては大抜擢、大出世だろうけど。


わ、私のことは?

愁也は私と逢えなくなっても構わないの?
一瞬迷うほどの気持ちも無いわけ?



……ん?なんだこの思考。
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