私んちの婚約者

「マリアをイタリアに送り返してくる」

愁也がそう言ったのは、マリアがうちに無理矢理滞在して三日目のことだった。

「そ~ね~。さすがに猫好きな私でも、もう限界~」

「俺は猫好きでもない」


私は目の敵にされてるし、とにかく愁也と話す時間を邪魔されて、私も愁也もイラつき気味なんだ。
そんでもって、今この瞬間も愁也の腕に巻きついている彼女は、べーと私に舌を出した。

む、ムカつくっ!

愁也は疲れたように溜息を吐いて、眉間を押さえて言う。

「ついでに仕事もあるし、明日から行ってくる」

それがマリアを『家まで』送り返してくるという意味だと気付いて、私は聞き返した。

「え?わざわざイタリアまで一緒に?」

帰れってひとこと言えば済む話では?

彼は困ったように私を見つめた。
なるべくマリアの方を見ないようにしているのは分かるんだけど、彼女は余計ムキになってぎゅうぎゅうくっついてますが。

「そういうわけにはいかないんだよ。彼女の父は社長の大事な仕事相手だし」


愁也を見て。
マリアを見て。


「わ、私も行く。どうせ今週行く予定だったし」

ヤキモチを悟られたくなくて、なるべく軽く言ってみた。
けれど愁也は私の顔の前に片手を立てて首を横に振る。

「悪い、梓は遠慮して。
……ややこしくなるから」

どういう意味よ!

口を尖らせた私を見て、マリアが言った。

「ワタシのひいおじいちゃんのいとこの奥さんの弟、マフィアね。アズサ、イタリア来たら蜂の巣にしてあげマス」

……ほぼ他人だろ、そのつながり……。
だけど目が笑ってない。本気だな、これは。
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