私んちの婚約者
「は?」

はああ!?
どこまでも何やってんのカイ兄!?

昨日抱き締められた時だろうか。
あまりにテンパってたから全然わからなかった……!

「それが姪っこへの挨拶なんだよ。南アフリカのどっかの村の風習だぜ?」

「このエロ親父!アホな嘘をつくなああっ!南アフリカの皆さんへ謝れぇ!」

私の怒りは最高潮。
しかしどうやら私以上に、愁也の気に障ったらしい。

「……へぇ?ムカつく風習」

もう絶対零度の視線でカイ兄を突き刺した。
目で人が殺せるならカイ兄は即死だな、うん。

けれど予想に反して、彼はニッコリ微笑んだ。営業スマイルってやつ?

「氷崎さん、申し遅れましたが、梓の『婚約者』の天野愁也です。よろしく」

……いま『婚約者』を強調しなかった?


「ああどうも。梓の『元婚約者』の氷崎甲斐です。よろしく」

「は?何言ってんの?」

私はカイ兄の言葉に反論した。カイ兄はふ、と笑う。


「だってお前、俺のお嫁さんになるって言ってたじゃねぇか」

「言ってねぇし!言ったとしてもそれ多分幼稚園児の頃だよね?」

私に向かって野獣が笑う。

「安心しろ、まだまだ有効期限内だから」

「馬鹿?ねぇ馬鹿なの?日本の法律勉強しなおしてこい!」

叔父と姪は結婚できません!

私のツッコミなど全く意に介さず。男二人はしばらく睨み合う。


「梓」


突然、愁也が私を呼んで、ん?と彼を見上げる。
ふいに愁也が私の顎を捉えて反らせると、ーー首筋に噛みついた。


「ほえ!?な、なに」


チリ、と熱を感じて。
愁也がカイ兄のつけたキスマークを、自分の痕で上書きしたのだと気付く。

しゅ、愁也さん、私心臓が保ちません……っ!

「イイ度胸じゃねぇか、若造」

カイ兄の低い怒りの声に。

「ウチの風習ですよ」

愁也が涼しい顔で言ってのける。


「梓は俺の、ですからね?」

愁也の完全勝利で、彼は嫣然と微笑んだ。
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