愛されオーラに包まれて
その後、アポ通り、同じ場所に神戸さんが入ってきた。

『こんにちは』

にこやかに俺に挨拶をした神戸さん。

『成瀬川局長がお一人でいらっしゃるなんて珍しいですね。何かございましたか?』
「あなたくらいのお人なら、今日の用件は大体察しがつくでしょう」
『さあ、何でしょうか。花村さんでも促進局長でもない、成瀬川局長さんからのご用件とは』

神戸さんは仕事が出来る。
出来る人間は、本音を顔に出さない。

カマをかけたつもりだったが、ここに時間を割いて駆け引きしても仕方ないな。

「うちの販売六部にいる高松遥香のことです」

神戸さんを見ると、少し目の色が変わったように思えた。

『何でしょうか』

声色は、変わらない。

「【B-Femme】のデモ販の時、あなたは高松に何かおっしゃいましたよね?」

俺の言葉に、神戸さんは一度俺の目を見た後、微妙に逸らした。

『さりげなく自己紹介されたので、昔のことを思い出していただいただけです。局長、ご存知なんですよね、私とはる…高松さんが高校の同級生だったということを』

この言葉の途中から、再び俺の目を見て話す。

「では、お聞きしますが、何故高松に対して"偽善者"と言う言葉をお使いになったのですか?」

俺は負けじと神戸さんの目をじっと見つめた。
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