学園物語

2

目が覚めたのは、隣人の声が聞こえたから。
右隣の野球人ではない。
もっと繊細な、男子高なのに女子力さえ感じる優しい声。
「そろそろ起きたら?」
「んん・・・んぁ?」
眠気眼をこすりつつ、ゆっくりと頭を持ち上げる。
周りは拍手喝采が起こっており、次々と学生たちが立ち上がり退場していく。
どうやら相当眠りこんでいたらしく、その間に式は終わったらしい。
慌てて時計に目を向けようと舞台右上を見上げると、首と左頬に少し痛さを感じた。
右側に嫌悪感を感じるあまりに左側に倒れ込んで眠ってしまっていたようだ。
そうこうしていると、刃達の列が立ち上がり退場する順番となる。
「お、あ!!・・・えと・・・」
周りの勢いに釣られて立ち上がるも、今どうすればいいのかすらわからずわたわたとしてしまう。
キョロキョロと見渡し、何故か眠っている間によだれ流れていなかったかと気になりだし口を拭ったり。
みるからに挙動不審な行動を野球人含む、誰もが見て見ぬふりをした。
「退場。前に付いていくだけッすよ。」
すると、後ろからまた女子力の高い声が。
決して声が高いわけではなく、どちらかと言えば低い方に入ると思う。
それでも言葉一つ一つに感じる暖かさに女子力の高さが見えるような気がするのだ。
刃はとりあえず後ろの声に従い、野球人たちの後を付いて歩いてく。
途中、満面の笑みでグーサインを送る母親を見た気がしたのだが、あえて視線から外しておいた。
「っくはー・・・!やっと終わった」
体育館の外に出ると差し込む太陽の光に目を細めつつ、身体に溜まった疲れを吐き出すように大きく伸びをする。
周りも同じようで伸びをしたり身体をねじったり、さっそく出来た友達と会話したりしていた。
ゴキゴキと音がなる肩を回しながら、ふと刃は後ろを振り返った。
先程から世話になりっぱなしの女子力男子を確認するためだ。
満面の笑みを浮かべ振り返るも、その時にはもう誰もおらず空間がポツリ。
自分は起きても夢を見続けていたのかと首を傾げると同時に驚いた。
夢遊病?ついに自分はハイジにまでたどり着いたのか。
なんの達成感かはわからないが感じつつ、そういえばお礼を言うのを忘れたという事に気付いた。
「はーいそれじゃあ教室まで行くから付いてきて下さい!」
笑顔ばっちり決め込んだ、40代半ば程のふくよかな女性が手を大きく振りながら誘導していく。
感じからして、事務の人間だろう。
H組と書かれた旗を手に先頭を歩きだす。
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