冷凍保存愛

 車に乗せられた道子と強羅は後部座席に座らせられたが、内ドアに開けるところがないことに気付き、お互いにそれには気付かないふりをして運転席に座りハンドルを握る小田原のところへ体を乗り出した。

 これには、運転席と後部座席に仕切りがないのかを調べるためと、『何も気づいていない』ことをアピールしておく狙いがあった。

 中から出られない作りになっている車は百パーセント怪しすぎる。

 ということはこの車の持ち主である小田原もまたしかり。

 どこへ連れていかれるのか分からないが、良くない方向へ物事が進んでいるのだけは分かる。

「先生、この車どこへ向かってるんですか? 私……」

「君たちをあそこに置いておくわけにはいかない。ちゃんと安全なところに行かないと」

「だからっ、でも、待ってください。あそこって先生の家ですよね? 先生の別宅みたいなところなんじゃないんですか」

 道子の突っ込んだ質問に強羅は心臓が口から飛び出そうになった。

 あまり突っ込んだ質問はしないほうがいいんじゃないかと思ったからだ。

「山際君、君はなんでそう思うのかな? 一言もそんなことは言ってないよ」

「だって、じゃあなんで私をここへ呼んだんですか。それに書類にはちゃんとっ……」

 言ってから口をおさえた。

 それを言ったら校長室に入ったことがバレてしまう。
 
 そうなったらなんで小田原のことを調べていてのか聞かれる。

 しかし運良く小田原はバックミラーで後続の車に気を取られていて道子が言ったことに気付いていなかった。

 小さくこづいた強羅に『ごめん』と小さく謝り、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。


「君たちを守るのが私の仕事だ」

 自分たちを守るのが私の仕事だと言った小田原の言葉に二人は息を飲んで顔を見合わせた。

 様子がおかしい。



 ここにはいない羽都音の顔が頭の中に浮かんだ。

< 156 / 225 >

この作品をシェア

pagetop