冷凍保存愛
その頃羽都音は小堺のアルバイト先にいた。
仕事中だった小堺を店の外に引っ張り出して、道子がいなくなったことを伝え、行先に心当たりはないかを聞いていた。小田原の家に行くには小堺のアルバイト先の店を通る。丁度いい機会だと思った。
小堺の家に行ったときに感じたものが羽都音の中で消えずに残っていた。
彼は悪い人じゃない。見た目で判断しちゃいけないって言うけど、彼は悪い人には見えない。
その気持ちが消えなかった。
道子とは同じクラスなんだから何かしらの情報を持っているんじゃないかと考えたが、小堺の答えは「全く知らない。彼女がどこにいるのか分からない」というものだった。
安堵のため息をつき肩を落とす。
ここで小堺が道子の場所を知っているそぶりや態度をしたり、不自然な態度をとったら彼がやはり怪しいことになる。
道子は小堺の尻尾を掴んだために小田原のところへ行ったことになる。ここにいたら私も危ない。
もし、そうじゃなかったら……
そうなるとまた振り出しに戻ってしまう。小田原のことは疑いたくないと羽都音は思っていた。
始業式からインフルエンザで休んでいて、初登校した時にはすでに仲良しグループができあがっていた。そんなときに親身になって気にかけてくれていたのは小田原だけだった。
「君さ、山際さんが僕のことをこっそり調べていたの、知ってる?」
「え?! (うそ、気づいてたの? 道子は確か気づかれないようにやってるって言ってたのに)」
「ああ、その感じだとやっぱそうなんだね」
「いや、それはその、えーと」
「いい、いい、大丈夫。分かってたから。彼女が僕を怪しんでたのは気づいてたよ。だからね、僕もこっそり彼女のことを調べてたの」
「どういうことですかそれ」
「うん、まずはなんで彼女がこの事件に首を突っ込んできたのか知りたくて。だって彼女にはこの件には接点が何もなかったから」
一歩後ずさる羽都音を追うように一歩前につめる小堺の顔には怪しい笑みが浮かんでいる。
前言撤回したいと思い始めた羽都音に、
「君も、あまり首を突っ込んでこないほうがいいよ。僕もそろそろ答えを見つけだせるところまできてたんだ。あまり掻き回してほしくないな」
真顔になった小堺は重たい前髪の奥から眼光鋭く羽都音を睨み、猫背気味な背中をギシと伸ばした。
逃げようとした羽都音の腕を素早くつかみ、
「捕まえた。さ、一緒に来てもらうよ」
不気味な笑みが溢れていた。