冷凍保存愛

「夏休みにさ、どこか旅行とか行きたいね」

 あたみはベンチに背を預けて背伸びをしながら言った。

「旅行かあ、いいね。あたみちゃんはどこに行きたい?」

「んー……そう言われると難しいね。そうだなあ……あ、代々木君はどこに行きたい?」

「俺? 俺は……あたみちゃんと一緒ならどこでもいいかな」

「……っ」


 目を真ん丸にして自分を見ているあたみに気付き、

「悪い。聞こえなかったことにして。まじごめん」

 焦った。不信感丸出しな目をしていた気がする。

 後悔した。

 いきなりこんなことを言われたらびっくりしてしまうし引かれてしまう。

 緊張で横見れない。

 何言われるかを考えるだけで怖い。

 時間が無限のように長く感じたとき、



「嬉しい! すっごい嬉しい! でもそれほんと?」

「ほんとも何も、おもいきりほんとです!」


 何言ってるのか分からなかった。

 肯定したい気持ちと動揺で自分でも変なことを口走っていた。


「私も。私も代々木君と一緒だったらどこでもいい。一緒だったら行かなくてもいい! 旅行いらない!」


「……ええと……すっげー嬉しいけど、旅行は行こう。近場で日帰りでさ、考えよう」

「うん」激しく頷いた。


 危うく旅行の計画が流れるところだった。

 あたみの天然っぷりに振り回されるのも、代々木にしてみれば新鮮で楽しいものでしかなかった。

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