冷凍保存愛

「この前は虫を踏みつけて殺してたのに」

 羽都音はぼそっと呟いた。

「そんなことしてたの? にしてはおかしな行動だね」

 コーヅもその言葉を聞いて首を傾げた。

 鼻歌なんかを歌いながら家に向かった小堺の自宅は案外近かった。

 コンビニからわずか10分の位置にあった。しかしその家は長屋の一つで、そこからは決して裕福だとは言い難かった。

「ここか。じゃ、入ろうか」

「ええ! ダメだよそれ。入るならチャイムとか鳴らさないと」

 ここかと言いながら堂々と玄関から入ろうとするコーヅに驚き、咄嗟にまともな回答を出した羽都音は言い終わってから自分が言ったことにびっくりした。


「面白いね羽都音ちゃん。そんなことしたら彼が本当は何をしているのか分からないよ」

「だよね……だよね。でもごめん、私怖くてできないよ」

「そうだね。確かにそうだね。怖いよね」

「怖い」

「わかった」


 羽都音と一緒にいる限りは侵入してもバレるのは時間の問題だと理解したコーヅは裏手に回り込み、植木の間から家の中を覗くことにした。

 回りに人がいないことを充分に確認してから行動に移した。


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