死が二人を分かつとも

葦の原と思ったけど、私がいるところを始め、不自然に刈られた箇所があった。

道のようにうねってみたり、踊り場のように開けてみたりと、作為的な伐採を感じられる。

葦の中を歩く気にはなれず、出来ている道に沿って足を進めた。

「チロ、高く飛んで、弥代くんを探せないかな」

「うーん。あんま高く飛ぶと、雷に打たれるんすよねー。神様なり天使なりが、手前みたいな地獄の奴が天国に来るって天誅するんです」

「上が天国なんだっけ?どんなところ?」

「さあ、行ったことありませんから。とりあえず、神様と天使がいます」

「天使……」

翼が生えた人を思い浮かべる。
でも、黒い雨を降らせたり、雷を落としたりと、上にいる人たちは暴力的な印象しか持てない。

「下が上に逆らえば、怒るよね……」

あの世も私たちがいた世界と変わりないところがあった。

「天使は、やっぱり死んだ人がなるんだよね」

「そうですよー。そよ香さんも天使になるべき人だったのに、まったくー。まっ、でも、最終的には天使も天使で生まれ変わりをしますから、おんなじなんですけどねー」

「天国にも、“最果て”みたいなのがあるの」


「ないと思いますよー。何せ、天使の生まれ変わりは点数稼ぎですから」

「点数、稼ぎ?」

「天国行ったことないんで、何があるか分かりませんが、善行を重ねなきゃなんないんですよ。神様のお膝元ですから」

「へえ。でも、チロ。知らないと言いつつ、行ったこともない天国のこと、よく知ってるね」

「そりゃあ、天使が話してますから。こっちの“死人さん”を狩りに来た天使がぺちゃくちゃと、お前を殺せば生まれ変われるだのなんだのとー」

聞き捨てならないことを聞いてしまった。

思わず、チロに詰め寄ってしまう。

「ま、待って!天使って、私たちも襲うの!?」

「あ、不安になりましたか。へーきですよー、天使はそうめったに降りてきませんから。天国いれば自然と点数稼げて生まれ変われるんです。わざわざ化け物いる地獄に降りてくる天使はいませんよ。いるとすれば、さっさと生まれ変わりたい奴ですが、むしろ現実よか天国の方が居心地いいってーー」

話している最中、雷が落ちた。

身が竦むほどの音は、近くに落ちたことを示唆している。

「やばっ、噂すれば影ありってこれですか!?」

大変だーと、私の袖に噛みつき引っ張るチロが、何を言いたいのか察せた。

「まさか、天使……!」

走る。
見たこともない存在だけど、私たちを襲う点では“犬”と同じ脅威だ。

私一人でどうこう出来る相手ではない。弱者はひたすらに、足を休ませず、逃走するだけ。

けど、まっさらな何もない大地と違い、今は障害物があちこちにある。

群生する葦につっこめば、間違い無く怪我をするし、思うように身動きは出来ないだろう。

だからこそ、出来ている道を進んで行ったのにーーふと、気づいた。

音がした場所から離れているつもりなのに、うねった道は、右へ右へとなだらかな円を描いている。

先ほども思った。刈られた葦の道。

さも、逃げ道を作ったと言わんばかりに作為的に伐採された道はいったい、誰が作ったのか。

チロや“犬”ではなく、残骸でもない。
ましてや死人が、地獄で草刈りをするわけもない。

だとすればーー

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