死が二人を分かつとも
「そよ香さん、震えてますよ。寒いんすか?」
チロの問いに、疑問符を返してしまう。
手先を見れば、小刻みに震えていた。
寒くはない。なのに、極寒の中にいるかのように心が凍てつき、引きつる。
「あ、あー、もしかして、さっきのですか?そうですよね、“残骸”や“住人”と違って、やっさん人殺しをしましたからね。死にはしませんけど。やっさんも自覚して見られたくなかったみたいですし……」
「そんなことないっ」
唐突な声上げに、チロが目を丸くした。
「弥代くんは、私のためにーー私が馬鹿なことをしても、それでも、怒ってくれてあんなこと……」
弥代くんは悪くない。チロに言い聞かせるはずが、そこに“必死”が混じると、まったく別の相手になってしまう。
「弥代くんは、私がいいようにやってくれているだけなんだから、怖がるなんてーーそんなことないっ!」
宛先は、私だ。
必死になって、彼を擁護する。
絶対そうだと言い聞かせているのに、体の震えが止まらない。ーー八木さんの時だけでなく、ことある度に平然と凶器を振り回す彼を思い出して。
『そよ香、こういうの嫌いだもんな』
嫌いだけど、それらは大好きな弥代くんがやっているから。私を守るためのその行為を拒絶してはいけない。
なのに、どうして。
「この話、止めましょうって。そよ香さん、なんか酷そうです」
涙まで溢れてくるのか。
正体不明のものは、考えれば考えるほど泥沼にはまることしか分からない。
チロの言うとおりにしなければ、震えたままだろう。
頷く。けれども、弥代くんは探さなきゃいけないと足を進めた。