死が二人を分かつとも
どこから取り出したのか、弥代くんの手には指輪があった。
翼のレリーフが入ったシルバーの可愛い指輪。
「ど、どうしたの、これ!」
「バイトを死ぬ気で頑張った。そよ香と付き合う前からずっとな。安物だけど、まあ、これはプレゼントみたいなものだから、高価なのは結婚してから改めて」
左手薬指に指輪が通る。
ぴったりだった。
「ありがとう」
「なら、そのまま薬指にはめててよ」
「そ、それは」
「バレるから、嫌か?」
頷く。
彼の気分を害すとも思ったけど、元より予想ついていたのか、彼は細いチェーンを私に渡してきた。
「俺と二人っきりの時は、必ず指につけてくれよ。後は、ネックレスにでもしてくれ。俺もそうするから」
もう一対の指輪を彼から受け取る。左手を差し出されたのなら、やることは決まっている。
「結婚式みたい」
花嫁にしか出来ない笑顔を浮かべ、彼の指に指輪を通す。当然ながら私と同じデザインだ。
「俺、掛川弥代は、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、死が二人を分かつまで、春野そよ香のことを愛し続けます。ーーって、こんな感じだったか?結婚式の誓いって」
「うーん、それは牧師さんが言って、私たちが誓いますと言ったような、私もよく分かんない」
「結婚式で分かるようになるな」
イタズラっ子のような笑みは、私しか見ない顔だ。
「後ででいいから、指輪の内側見てほしい。名前、彫ってもらったから。k.soyokaって」
「掛川そよ香かぁ」
「なんなら、俺が春野弥代でもいいし。ともかくも、本気だから」
本気で愛してくれている“彼”のおかげで、私はいつも幸せな気分になる。
高校生で結婚を語るのはまだ早いかもしれないけど、夢を見せてくれる人がいるのだから、私はそちらと共に歩みたい。
誰にも教えられない仲。
ふと、結婚式に私と彼しかいないイメージが湧いてきた。
寂しい場所でも、向かい合う二人は幸せそうに笑う。世界一の幸せ者だと笑っていける。
あなたが、笑ってくれるのなら。