死が二人を分かつとも

指輪の内側に、名前が彫られている。

「けー、そ、よ、か?」

『k.soyoka』
そのまま読んだ瞬間、頭に『春野そよ香』と浮かび上がった。

「そよ香、そうだ、そよ香。『そよ香』だ!」

で、すぐに「あれ?」となる。

思い出せた名前は、『春野そよ香』。でも、指輪は『k』と彫られている。

もうしかして、間違っているのか。考えてみたけど、答え合わせ出来る記憶もない。


『そよ香』は間違いない。絶対とは言い切れないけど、しっくりと馴染む物がある。


霞の向こう側の景色が見えたかのような安堵感。うっすらでも、何も分からないよりはマシだ。

自身の名前。頭から抜け落ちないように、反芻する。

一度は声で、二度目からは頭で。

名前を口火に、他に思い出せることはないか考えてみたけどーー霞は漂ったままだ。


「……どこかに」

ここがどこか分からないなら、分かる場所に行くしかないか。

闇雲だけど、こんな薄気味悪いところでじっと座っているのは嫌だ。

立ち上がる。制服についた灰色の砂を落とす。

指先についた残滓を、指の腹でこすってみれば、やけにサラサラしている土だった。


「変な地面」

つま先で小さな穴を彫ってみる。それでも土の色は変わらない。まさかだけど、灰が降り積もって出来ている土なのかな。

「木も変……」

こんな土で育つ植物が枯れるのも頷けるけど、苔色をした木は初めて見た。

近づき、こちらも触れてみる。

ボコボコした肌触りは、この木がとぐろを巻くかのように天に伸びているから。小さな木が何本も絡みついて出来上がったみたい。剥製のようなそれでも、植物と自己主張せんばかりに枝先からツタが垂れ下がっている。

このツタもまた木の幹に絡みついていた。蛇みたいだ。

< 6 / 133 >

この作品をシェア

pagetop