愛を欲しがる優しい獣

「でもね、途中で気持ちがすれ違っちゃったみたい。私は彼と同じように家族も大事だったから……。それが不満だったのね」

当時、母はひろむを妊娠中だったし、双子は幼稚園に入りたてで誰かが世話をしなければならなかった。

授業が終わるとすぐに帰宅し、休日も家事に追われ、満足にデートをすることもできなかった。彼の不満は募る一方で、終わりは直ぐに訪れた。

「お別れする時、彼の方がずっと苦しそうだった」

とても優しい人だったのに。あんな台詞を言わせたのは他ならぬ自分だった。

「その時、思ったの。こんな風に誰かを傷つけるくらいなら、私はもう恋なんてしないって」

彼はその後、別の女性とお付き合いを始めた。一緒に歩いている姿を何回か見かけたことがある。その度に、これで良かったのだと自分に言い聞かせていた。

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