愛を欲しがる優しい獣

41話:夏休みの思い出


「これ見たい」

恵は小さな腕を一生懸命伸ばして、私の前にチラシを掲げた。

(珍しいこともあるのね……)

陽と違って恵が自分から要望を言ってくることは稀だった。大人しい妹の精一杯の頼みを聞いてやろうと、チラシを受け取って内容を確認してみる。

受け取ったチラシはセカイジャーと、女児向けのアニメである“プリティーハート”の映画2本立ての宣伝チラシで、公開日は明日までとなっていた。

「見たいの?明日までよね、これ」

確認するように尋ねると、うんうんと興奮しながら恵が頷く。

陽がゲームをしながら横から口を挟む。

「恵は鈴木と行きたいんだって」

「そうなの?」

再び尋ねると、恵は鈴木くんの顔色を窺った後にコクリと静かに頷いた。

「この間、鈴木とふたりで水族館に行っただろう。俺達だって遊びに行きたかったのにさー」

陽の言葉にぎくりと私と鈴木くんの肩が揺れる。お土産でご機嫌を取ったつもりだったが、不十分だったようだ。
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