愛を欲しがる優しい獣
「大変でしたね。鈴木さんまで自宅待機になるなんて……」
彼女は妙に甘ったるい媚びを含んだ声色で同情を寄せた。
名前を思い出すことすらできていないのに、必死に歓心を買おうとする様子が滑稽に思える。
これが佐藤さんだったら良いのにと無神経なことまで考えた。
「監査部に呼ばれているので、失礼しますね」
俺は申し訳程度に笑顔を振りまくと、やってきたエレベーターに飛び乗った。
扉が閉まる直前に見えた残念そうな顔の彼女に胸がすくような思いがした。
おざなりの慰めの言葉など要らなかった。
(やっぱり会社やめようかな……)
佐藤さんとの唯一の接点だった会社だが、今となってはもう何の意味もない。
彼女以外の女性は正直、誰でも一緒に見えた。