愛を欲しがる優しい獣

「腹いせに週刊誌に父親のネタを売ってやったら良い金になったよ。それがばれて……というか自分でばらしたんだけど、勘当されましたとさ」

(あ……あくどい……)

まるで他人事のように笑う彼の様子を見て、頭の回転の早さが別の分野で発揮されなかったことを残念に思う。

「まあ、はっきり言って清々したね。物分かりの良い息子の振りしなくて良くなったから」

彼自身が期待に応えられるくらい優秀なだけに、無理をしていた部分はあったのだろう。

会社外での気の抜けた姿はその反動なのかもしれない。

鈴木くんはリモコンでテレビの電源を切った。

一瞬で暗くなった画面が一転して、室内の様子を浮かび上がらせる。

液晶に映った洗濯物の山の中で呆けている私と、瓶底眼鏡と着古したジャージに身を包んだ鈴木くんは実に間抜けだった。

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