愛を欲しがる優しい獣

*********************************************

「嫌だ」

「“嫌だ”じゃないの」

困ったような笑みを浮かべる鈴木くんを挟んで、私とひろむの睨み合いが続く。

ひろむは鈴木くんの脚に抱き付いて決して離れようとした。

時刻は既に9時を回っている。

ひろむはとっくに寝ていなければならない時間なのに、鈴木くんに遊んでもらいたくて夜更かしをしているのだ。

次の朝起きられないことは眼に見えて分かっているのに。

「また今度にしましょう。もう時間も遅いし……」

「また今度っていつ?」

言われた瞬間、ドキリとした。

「姉ちゃんはいつもそうだ!また今度って!」

ひろむは目に涙を浮かべていた。

“また今度”は都合の良い大人の言い訳だ。ひろむは幼心に知っているのだ。

“また今度”が来ないかもしれないことを。

< 27 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop