愛を欲しがる優しい獣
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「嫌だ」
「“嫌だ”じゃないの」
困ったような笑みを浮かべる鈴木くんを挟んで、私とひろむの睨み合いが続く。
ひろむは鈴木くんの脚に抱き付いて決して離れようとした。
時刻は既に9時を回っている。
ひろむはとっくに寝ていなければならない時間なのに、鈴木くんに遊んでもらいたくて夜更かしをしているのだ。
次の朝起きられないことは眼に見えて分かっているのに。
「また今度にしましょう。もう時間も遅いし……」
「また今度っていつ?」
言われた瞬間、ドキリとした。
「姉ちゃんはいつもそうだ!また今度って!」
ひろむは目に涙を浮かべていた。
“また今度”は都合の良い大人の言い訳だ。ひろむは幼心に知っているのだ。
“また今度”が来ないかもしれないことを。