愛を欲しがる優しい獣
61話:本当のお別れ
「今、帰り?」
みれいゆで明日の朝食とお弁当の具材を買って家路を急いでいると、スーツ姿の鈴木くんと出くわした。
「持とうか?」
食材の詰まったレジ袋を見かねて申し出てくれた彼の好意に素直に甘える。
「ありがと」
ふたりで並んで歩いているとまるで、“お別れ”を言ったことなどがなかったかのようだった。
「今日は遅かったんだね?」
「飲みに行っていたの」
「渡辺さん?」
「ううん、佐伯くんと」
佐伯くんの名前を出すと鈴木くんはあからさまに声のトーンが下がった。
「俺が誘った時は頷かなかったのに、渉に誘われたらついて行くんだ?」
私は呆れてものが言えなくなった。
鈴木くんは一体、いつのことを根に持っているのだろう。
食事に誘われたのは春先のことで、随分と昔のことだった。
あの頃は鈴木くんの人となりも知らなかったのだから、断ったとしても無理はない。