愛を欲しがる優しい獣

「どうして気が付いたの?」

「前に一度だけ鈴木くんが亜由の名前を呼んだことがあってね。ピンときちゃった。他部署のいち女性社員の名前まで覚えるような人ではないでしょう、彼」

私はゆっくりと頷いた。

鈴木くんはあれだけ話題になったというのに、関谷さんの名前すら知らなかった前科がある。

「あとね、これはオフレコなんだけど。亜由を紹介してくれって頼まれたこともあるのよ、佐伯経由で」

椿の言葉に目を見開く。

「名前は聞かなかったけれど、頼んだのはきっと鈴木くんね。亜由ったら断っちゃったけど」

(知らなかった……)

鈴木くんからそんな話を聞いたことはなかった。

椿の言うことが本当だとしたら、鈴木くんは一体いつから私のことが好きだったというのか。

「ねえ本当にこのままで良いの、亜由?」

椿はもう一度確認するように私に尋ねた。

< 306 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop