愛を欲しがる優しい獣

63話:背中合わせのふたり


「今日も来ないの?」

「うん」

早苗が誰のことを言っているかなんて、聞かなくても分かる。

「来ないってわかっているのに、鈴木の分も用意するんだ?」

「うん」

用意された魚の切り身は8人分で、家族7人で食べるには1人分多い。食卓に並ぶ食器の数も同様だ。鈴木くんの席は今でもぽっかり空いている。

早苗は呆れたように言った。

「ウジウジしちゃって辛気臭いわよ、姉さん」

「うん、ごめんね」

自分でも女々しいって思うくらいだから、早苗の目にはもっともどかしく映っているのだろう。

弟妹達は鈴木くんが来なくなったことに関して何も聞かなかった。

元の7人での生活に戻ったと言えばそれまでだった。

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