愛を欲しがる優しい獣

お互いにキャラクターと対戦エリアを選んで決定ボタンを押す。

闘いの火蓋が切って落とされると、櫂くんは間髪入れずに技を繰り出してきた。

その精度と的確な判断力は確かに最強と言われる力量だった。

だが、まだ俺にも分がある。大技は威力が大きい分、隙が出来やすいのだ。

こちらは小さい技で櫂くんのキャラクターの体力ゲージを徐々に削っていく。

そして、あと一撃というところまで追いつめた時だった。

「あんたさあ、亜由姉ちゃんのこと好きなんだろ」

俺にしか聞こえないように小声で呟かれた一言に思わず手が止まる。

(しまった……!!)

「俺の勝ち」

最後の最後に大技を決められ、俺のキャラクターの体力ゲージはあっという間に空になった。呆然と画面を見ているところに、しみじみと樹くんの声が響く。

「あいつが最強たる所以はその精神攻撃にある」

「先に言ってよ!」

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