愛を欲しがる優しい獣
(コンタクトはともかく、髪の毛ぐらいはセットしよう)
幸い今日は外出の予定もない。社内でたまった事務作業に没頭していれば退社の時間まですぐだろう。
そう思い直して休憩室を出ようとした時だった。
自販機の前でうなだれている女子社員に気が付いたのは。
「どうしよう……財布……」
どうやら彼女は自販機を利用するのに財布を持ってくるのを忘れてきたらしい。
丁度良かった。片手に持っていたココアの行き先を考えていたところだったからだ。
「良かったらどうぞ。ココアですけど」
彼女は差し出されたココアと俺の顔を交互に眺めた。
「良いんですか?」
「間違って買ってしまって困っていたんです」
「あ、ありがとうございます!」
彼女はココアを受け取ると、深々とお辞儀をした。