ストーンメルテッド ~失われた力~
ベッドルームで一晩二人は共に寄り添い寝ていた。

今朝、先に目覚めたジュノは黒い髪をいじりながらゆっくりと上半身を起こし隣でまだ眠りについているヘリオスを何気なく見詰めた。

くせ毛の茶髪で、けして整った顔とは言い難い顔立ちのその彼を見詰めながら考えていた。

どういった形でこの恋が始まっただろうか? 何故かそれを思い出す事が出来ないでいた。

そんなことを何故私は忘れてしまったのだろうか?


彼女は、ベッドからゆっくりと抜け出すと身に付けていた白いキャミソールを脱ぎ 身体にフィットした形のボルドーのクロップ丈トップスに着替えて、黒スキニーのボトムスを履いた。

その後、彼女は傍に置かれてあったチェアに座りピンヒールの黒いサンダルを履くと素早く立ち上がり、メイクルームの方へと足を運んだ。

鏡を見詰めながらオレンジベージュの口紅をゆっくりと塗ると、彼を起こしに行こうと思い向きを変える。

「......おはよう、ジュノ」

いや、その必要はなかった様である。

ヘリオスはメイクルームの入り口の前に立ち、こちらを見詰めながらそう言った。

「おはよう。......珍しい事もあるものね」

ゆっくりと甘い声で彼女は呟いた。

「ん、何が?」

「だってあなた、私が起こしに行かないと永遠に寝ているでしょう?」

「まぁ。............でも、 “永遠に” は大袈裟じゃないのか?」

「そうかしら」

「......俺は、いつでも起きようと思えば起きる事が出来た。だけど、君と言う美しい人に起こされると言う事は快感だったんだよ」

ヘリオスは彼女に近づき彼女の頬を優しく触りながら言う。

「だが最近は、君の魅力が分からなくなった。今日、俺が君なしでも起きる事が出来たのはそれだけの理由だ」

「ねぇ......それ、どう言う意味なの? ......私にもう飽きたとでも?」

彼女は ゆっくりとした動作でしなやかな手を彼の胸元に置き、彼の耳元で吐き息を混じらわせた口調でそう訪ねた。

「..................かもしれないな。
ねぇ、ジュノ。君は美しい......けど、あの頃の君は何処へ行ってしまったんだい?
本当に変わってしまったよ............」

そう言うと彼は、胸元に置かれたジュノの手を優しく振り払い残念そうな表情を浮かべた。

彼が言ったあの頃の君とは、闇を操る強くも美しかった彼女のことである。

そして、ヘリオスは踵を返して歩き出すと彼女の家の扉を開きここから出て行こうとした。

その後ろ姿を見詰めながら彼女は言った。

「ねぇ、ヘリオス?
今夜も仕事......頑張ってね」

ヘリオスはその声を聞くと先ほど扉を開けようとドアノブに手を当てていた手を再び動かし始め、出て行った。



その後、彼女は誰もいない寝室のベッドの上に深々と座り込んだ............。


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