ストーンメルテッド ~失われた力~
一ヶ月後

「翔?」

翔は、いつもの黒いカバーを付けた本を閉じてから、聞きなれた声の方を振り向いた。

「おはようジュノ。あっ、でも......もうお昼だから、こんにちはだね」

「あなた、意外とそう言う所細かいのね」

「それより......ジュノ、ひとつ聞きたいことがあるんだ」

「何を?」

「どうして、しばらく来なかったの?」

「来なかったんじゃないわ、来れなかったのよ」

「あ......どちらでも同じだよ?」

「うるさいわね......。色々あったのよ。私......両手がしばらくの間、ミラーになっていたの。それで、外出禁止令を出されていたの......」

「それは、悲惨だね。その間は、何をしていたの?」

「友達と会話。それも......私と同じ、神の力が弱まってしまった神とね」

「君だけじゃないんだ......。でも、何でなの?」

「分からない......。っあ、そうだ翔!
明日、誕生日だよね」

「え、どうして知ってるの?」

「あなたの、お父さんから聞いたの」

「え?! 父さんが......そんな、ありえないよ。父さんはずっと仕事で」

「翔、会ってないのね......。2、3日前に来てたわ。でも、合わせる顔が無かったのかもね。仕事ばかりで息子の事なんか考えてい無かった俺は、悪いって......。自分を責めていたもの」

「そ、そうなんだ......。父さん......」

「翔? ......明日、もしも、行きたいところがあれば何処かに」

「え、いいの? ......でも、僕......病人だし......」

「大丈夫よ。看護師さん、OK出してくれたから」

「じゃあ、正直に言っていい?」

「えぇ」

「僕、一度もまだ、海に行ったことが無いんだ......。一度は......一度でいいから綺麗な海を......見たい」

「いいわ、分かった。明日、行きましょう......海に」

「うん」

翔は、嬉しそうな顔を浮かべて頷いた。
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