檸檬-レモン-
「あたし…山口の言う通りだったよ」
鼻水を啜る音が聞こえた。
泣いている?
胡桃沢が泣くことなんて、ひとつしかない。
「吹っ切れてなんか、なかったんだ。家族になんか、なれ…ないや」
「何かあったんか?」
元彼と。
「…ちゃったんだ。見ちゃったんだ…あたし」
弱々しく話す胡桃沢は、SNSで元彼のページを見てしまったらしい。
結婚の、報告。
幸せに寄り添うふたりを。
「その瞬間、何故か泣き崩れたよ…山口の言う通り、あたし…何にも変わってなかった」
そんなの、知ってる。
心の奥底で、いつかまた元彼と戻りたいと思っていて。忘れられなくて、誰と付き合おうと越えられないんだって。
知ってるよ。
「ばーか。だから言っただろ」
そう言って、小さく笑った。
「でも、やっと気付いたよ。もう諦めなきゃいけないんだって」
「うん」
「ここから、やっと…進めるんだね」
やっと。
胡桃沢は、他の誰かをまた好きになって。
幸せになるんだ。
俺でもなく、元彼でもなく…
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