檸檬-レモン-



「え、じゃあその同じマンションの篠崎さんて人が"レモン"のオーナーなんだ?」


お昼休みになって、早苗と社員食堂にやってきた。

焼肉定食を奢ってもらうために。


「そうなんだ。すごく素敵な人なんだけどさ」


「なんだあ。もっと早く言ってくれれば良かったのに。明日のお昼は、"レモン"に決まりね」


早苗は、フォークにパスタを器用に巻きながらニヤリと笑った。


「で、でもさ。ほら、恥ずかしいじゃない?無理無理!」

「だーめ。待ってても、何も変わらないよ?」


早苗に話すと、事がポンポン進んでしまうから怖い。


そりゃあ、早苗みたいに可愛い女の子なら何も躊躇う必要はないのだけれど。


「連絡先を、交換しなきゃ」

「無理だって!そんな勇気ないよ」


「大丈夫!早苗がついてるから」


そう言ってニッコリと笑顔を貼り付けているけれど、有無を言わさない早苗の必殺技だ。


絶対に、逃げられない。


でもひとりじゃ何も出来ない自分がいる。

一歩、踏み出す勇気も必要だ。


ここは早苗の力を借りるしかない。


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