檸檬-レモン-



「奈々、邪魔よ。寝るなら自分の部屋行きなさい」


「ほーい…」



久しぶりの畳が心地よくて、ゴロゴロしながらアイスをかじっていた私は、背中を掻きながら起き上がる。


掃除機をかける母の邪魔らしい。


ボロボロのハーフパンツに、いつのか分からないTシャツ姿の私を見るなり、母は悲しそうに笑った。


「あんた、年頃の娘の姿じゃないわよ」


「家にいる時くらい、いいじゃんか」


誰に見られるわけじゃないんだから…


誰にも…



「うっ、圭ちゃん?!」



「よっ!久しぶり」



なんだ、お母さんてば来るなら来るって言えばいいのに!

今更悪態をついても仕方がないけれど。

リビングにひょっこり顔を出したのは、幼馴染みの井口 圭太こと、圭ちゃんだ。


「野菜持ってきた…って、お前その格好はないだろ」

「う、うるさい!部屋着を持ってくるの忘れたの」


圭ちゃんは鼻で笑って、私が食べていたアイスを奪った。


「あたしのアイス~…」


「いいじゃん。暫くいるんだろ?暇な時、俺の自慢の娘を見に来いよ」


「行く行く!」


いつも暇だよ、とは言わないでおこう。
圭ちゃんもお父さんかぁ。

私の夏休み、実家でゴロゴロで終わっていくのかな…


「加奈子にも言っとくよ。じゃあな」

「うん、ありがとね」


加奈子さんは、圭ちゃんの奥さん。
社内恋愛の末、去年結婚した。

小柄でおしとやかな可愛い女の子。

私の周りは可愛い女の子が多いこと。


ふと、玄関横の鏡を見て絶句する。


髪の毛ボサボサ。スッピン…


恋をすれば綺麗になるのでしょうか。


そんな自分を見ていられなくて、私は自分の部屋へと階段をかけ上がった。




.
< 66 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop