檸檬-レモン-



突然。


突然、携帯が鳴った。


すっかりベッドに沈んでしまった身体は、なかなか起き上がらない。

ベッドから手を伸ばしても、ローテーブルの上の携帯に届くはずもなく。

仕方なく勢いをつけて起き上がった時、着信音が鳴り止んだ。


そのまま寝転んでしまいたい…


結局、携帯を手にするまでに何十分かかったことやら。


「はっ!」


不在着信と表示される番号は、登録されていないものだった。


心当たりがあるのは、篠崎さん。


まさか…?


暫く番号を眺めていた私は、発信を押して携帯を耳に当てる。

心臓が煩いくらい、全身を駆け巡る。


「…もしもし、篠崎です」


「あ…あの、胡桃沢です」


耳が、脳が、溶ける!


「連絡が遅くなってしまってすみません…」


「い、いえ。全然」


頭が真っ白。何も言葉が出てこない。


「連絡、待ってました?」


篠崎さんの声、電話だと少し低いんだ。


「ちょっと…」


いや、待ってました。待ちくたびれてました。

ベッドの上に正座しているせいか、冷房の風が髪を靡かせる。

何もかも、さらって飛ばしていくかのように。


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