雨の残照【短編】
雨の残照
 朝から雨が降っていた。

 パタパタと天から落ちる水の粒は傘が必要なほどで昼を過ぎても雨は止まず、夕方近くになっても降り続いた。

「も~、やんなっちゃう」

 彼女はオレンジの傘を広げて、人通りの少ない道をコンビニ求めて歩みを進める。

 梅雨の雨はさほどの冷たさを感じないが、もの悲しい景色には違いない。

 折角の有給休暇だったのに、雨のせいでどこにも行けなかった。

 神様がいるなら恨んでやる。

 肩までの黒髪を鬱陶しそうに払い、やや強い足取りで数十メートル先のコンビニを見やった。

 食べるものが無かったのだから仕方がない。

 予報では今日は梅雨の晴れ間だったはずよ。

 時折は空を睨み、何を買おうかと思案した。

 公園の横を通る道は舗装されていて、両脇に所々植えられている紫陽花が雨の風景をほんのり彩っている。

「あ」

 ふと、右にある空き地に目をやるとぼんやりした影が視界に入った。

 ゆらりと立っているその影は、傘もささずに空を仰いでいた。
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