雨の残照【短編】
 彼女は何故かその姿に不思議な印象を受けた。

 遠目からでも青年だと解る影は、感情を表すことなく雨に打たれ続けている。

 声をかけようか、どうしようか。

 こんな所で雨に打たれているなんて、変な人だったらどうしよう。

 雨の公園になど自分以外は誰一人として通りかからない。

 もし声をかけて襲われでもしたら、きっと逃げられない。

 このまま通り過ぎてしまおうか……。

 しかし、その横顔がとても綺麗で彼女は魅入られたように立ち止まった。

 悪い人ではなさそう。

 だけど、悪い人は大抵そんな言い方をテレビでもされているじゃない。

 躊躇っていたが、優しそうな眼差しに意を決して歩み寄った。

「あのっ」

 怖々と声をかけると、その青年はゆっくりと振り向いた。

 間近で見る顔立ちは言葉を無くすほど整えられていて、彼女はしばらく見つめてしまった。

 青年はそんな女性に笑みを見せ、再び空を仰ぐ。

 その笑顔にドキリとし、傘を青年の頭の上にかけた。
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