*短編集* 『 - 雨 - 』


「まだ仕事残ってるんでしょ? 何か外に出る用でもあるの?」
「いや、ただ智夏が帰るの見えて、どうせ傘ねーんだろうなって思ったからこれ渡してやろうと思っただけ」

そう言って渡されたのは折り畳み傘で……。
いつもはないような優しさを施されて、顔を歪めて晴人を見上げた。

「えっと……これはどういう嫌がらせ?」
「嫌がらせどころかただの俺の親切心」
「だったら尚更遠慮しとく」

晴人の差し出した傘を片手で押し返すと。

「いいから使えって。じゃあな」

と、無理やり折り畳み傘を握らされた。

晴人は、特別用意のいい男ではない。
なのに、天気予報で雨の一言も予報されていない日に折り畳み傘を持ち歩くなんて事はどう考えてもおかしい。

だからこれはきっと何かしらの罠なんだろうと、押し付けられた傘をまじまじと見て……それから、もう小さくなった晴人の背中を見た。

なんだろう……。
開いた途端、毛虫のオモチャが飛び出してくるとか、そういうびっくり箱的な傘だろうか。

それとも、接着剤で止められてて絶対に開かないとか……。

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