*短編集* 『 - 雨 - 』



「うわ、雨降ってる」
「朝の天気予報では雨なんて言ってなかったのにー」

会社から出ようとしていた私の先を歩いていた社員が、次々にそんな声を上げたのを見て、雨が降っている事を知った。

確かに今朝の天気予報では雨なんて一言も言っていなかった。
だから、当然傘なんて持ってきてない。

幸い、うちの会社は駅まで近いから、社員はどうしようかたいして悩みもせず、駅までダッシュという選択肢を選ぶ人がほとんどで。
けれど私は徒歩なだけに、さてどうしようか、どうせにわか雨だろうしすぐ止むかな、なんて思いながら空を眺めていた時。

「智夏、傘ないのか?」

後ろから声を掛けられた。
社内で私をこんな風に呼ぶ男はひとりだけだから、振り向く前から誰かは分かっていた。

内田晴人。私の幼なじみ。

「社内で馴れ馴れしくするのやめてよ。あんたと腐れ縁だって知られると周りの女性社員に色々聞かれるんだから」
「別にいいじゃん。俺は智夏と仲がいいって周りに知られたところで誰からも何も聞かれないし」

……それはまぁ、事実だろうけど。
私は晴人と違って美形じゃないし、普通だし、モテませんけど!
それにしたって言い方があるだろ、と隣に並んだ晴人のお腹に肘打ちを入れてやると、上の方から「ぐぇ……」とわざとらしい声が降ってきた。





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