。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。


響輔を追って、たどり着いた先は恐らく病院の最奥にある『緊急処置室』


その脇に裏口があって、救急車が出入りできるようになっている。朔羅が熱中症で運ばれたのもここだった。


そう言えば受付で緊急患者が居るって言ってたような。しかもドクター鴇田が出張るぐらい“大物”―――


一瞬の内に考えて




緊急患者ってのは


あの女狐




イチってことか―――!




と改めて知った。


緊急処置室は『手術室』とはまた違ったが、それでもさっきから病室を看護師たちが忙しなく行ったり来たりしている。


しかしそこに入れるのは特別な人間だけみたいで、看護師たちが出入りする度、専用のIDカードをかざすと、扉が開閉すると言う仕組みらしい(朔羅の時は違ったが、どうやらロック方式らしい。病状のレベルで変わるみたいだ)


響輔が走っていったとき、運悪くちょうど看護師たちが中に入っていった所で、響輔の目の前で扉が虚しく閉じた。


その閉じた扉に両手で、


ドンドン!


と激しく拳を打ち付け





「一結!」





と叫んでいる。


「ちょっ!落ち着けよ!手術室じゃないし、無事だろ!」と響輔の背後からこいつを羽交い絞めにしてその行動を止めようとしたが、それでも響輔はその腕を振り払い、尚も


「一結!!!!」


と狂ったようにその名前を口にして、


叫んだところで扉が開かないことを悟った響輔は、扉に拳を打ち付けたまま、その場に力なく両膝を突いた。


「……一結…」


と弱々しく呟いた声は震えていて、


「とにかく、落ち着こうぜ……な?」


と言って響輔の両肩を掴んで立たせると、響輔は弱々しく頷いて


「俺のせいや……」


と呟き、


「は?お前のせい?お前らなんかあったん……」


と聞いたが、言葉尻の最後までちゃんと聞けなかった。


響輔のぎゅっと瞑った眼の端に涙が浮かんでいたから―――




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