。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。



そして和則は小学校生活を無事送り、その間に椿紀は出版社に就職した。


僕はそのことに反対しなかった。


世間に顔向けできる身分があるのなら、それに越したことはない。万が一警察の世話になろうと、彼女と和則の身の安全だけは保障されるし、万が一僕の片割れが彼女たちに手を出そうと、警察に身を匿ってもらうこともできる。


ただし、その場合僕の身が危機になるが、僕一人だったのならどうとでもなる。鴇田の背後には絶対的な権力を持つ“青龍会”があるから。


彼らと警察上層部は切っては切れない関係、つまりズブズブだった。


金と権力―――


汚い話だが、絶対正義なんてものこの世に存在しない。


実際、今の龍崎会長と一ノ瀬警部補の関係がいい例だ。


そうして和則は小学校生活を終え、地元の中学に進学した。小学校から好きだった野球の部活にも入ることが叶い、中学生活は楽しいものだったらしい。


和則は父親の存在を学校でも「海外赴任してる」と言ったらしい。だが実際のところある程度気づいていた違いない。


小学校高学年の頃、和則は母、椿紀に向かって


「ねぇ、母さんはお父さんの“あいじん”なの?お父さんには“ほんさい”が居るって、噂されてるんだけど」


と言ったらしい。椿紀は「違うわよ」とはっきりと否定したが、和則は納得したのかしてないのか。以来、その話題は和則の口から出たことはない。


歳を重ねれば重ねる程、そうゆう口さがない噂話と言うのが耳に入ってくるが、それでも僕を父親と言ってくれて、会いに行くと年相応の愛情表現をしてくれる。


僕はその表現を和則の“素”だと思っていたが、ある日椿紀がため息を吐きながら『愛人説』のことを教えてくれて、僕は椿紀以上に深いため息を吐いた。


椿紀は僕の愛人ではないし、結婚できない、隠さなければならない理由はある。


けれどその理由は人には絶対に話せない。


そう言うわけで、約16年間と言う月日、必死に彼女らの存在を隠した。


和則は今年で17。高校生二年生。ちょうどお嬢と同じ年齢だ。


僕は椿紀との連絡は極力控え、万が一何かあったとき用の緊急連絡先を教え、和則が小学校を上がるとき、椿紀と和則に


終の棲家(ついのすみか)」となるよう願いを込めて家を買った。


いずれ、僕が帰れる―――




そんな想いを込めて。





< 416 / 439 >

この作品をシェア

pagetop