。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。


だが、僕の願いは虚しく、平和だとは言い難いが、少なくとも和則にとっては平和な17年間が、あの白虎のガキ共にあっけなく崩されようとしている。





「守るものがあれば、ひとは弱くなる」





一言呟いて、僕は電話ボックスの受話器を置いた。


チン、と虚しい電子音がボックス内を満たし小さく吐息を吐くと




「そうかな?守るべきものがあれば、そのひとの為に


アクセルにもブレーキにもなるよ」




と背後で男の声が聞こえ、僕がのろりと振り返ると、ボックスのガラスの壁に男が一人背をもたれさせて腕を組んでいた。


後ろ姿だったが誰だか分かる。


その人物は警戒に値する人物ではなかった。


「君は―――アクセルにもブレーキにもなるひとがいるの?」と聞くと、男は無言で肩をすくめた。


Yes、ともNoとも取れる仕草だ。


まぁ僕としてもこの男の背景を知るつもりもないし、知りたいとも思わないが―――


男が出し抜けにくるりと振り返り、ボックスの中の僕と向かいあう形になった。


「これで“第三段階”までクリアだ」


男が楽しそうに笑って、僕も肩をすくめてみせた。


「ああ、途中ひやひやしたが、何とか“最終段階”まで行けた。


“君たち”のおかげだ―――」


「“調合師”として、俺たちを選択したあんたの判断は正しかった―――


そう証明してみせるよ」


「そうだな、“仕事”は最後までやり抜いてもらわないと困る」


「けれどあんたの欲しい情報をまだ引き出してない」と男がちょっと眉をしかめると


「それは大丈夫だ。


手は打ってある。



黙っていても、“情報”はやってくる―――


早くて明日、遅くて明後日―――




情報を得るために払った“代償”は大きかったが―――」





僕は電話ボックスの壁に手を付き、男と向き合う形になると、男がうっすら微笑を浮かべた。


「全部計算済みってわけか、さすが会計士なだけある」


「ああ、全て終わったら君たちは―――……」


言いかけた言葉は途中で途切れた。別に”彼ら”の今後がどうなろうが僕には関係ない。必要なのは“現状(いま)”をいかに乗り切るか―――だ。


「俺たちは“風”だ。自由気まま、だが、必要とあらばどこまでも行く。


この命が尽きるまで。


あんたは―――?」


逆に聞かれて、


そうだな。



全て終わったら―――


僕は椿紀と和則を迎えにいきたい。




両手を広げて、力強く彼らが飛び込んでくるのをただ受け止める。


それが一番の




望みだ。





■□ TAIGA □■

~END~



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