godlh
今日の授業は、陸上競技だった。跳んだり、走ったり、おまけに個人競技である事が、あいつの観察にうってつけだった。
「次、彫野。」
今の最高記録は、哲の出した七メートル三十センチだった。今まで、哲の出した記録を破ったやつはいない。今日も、いつも通り哲が一番になるはずだったのだが。
「先生、どれくらいですか?」
涼しい顔で、そう言うあいつは、そこにいた男子全員に反感を買った。誰もが、あいつが跳んだ途端にわかった。哲とは比べものにならない、とんでもない記録だと。それを知っていて、そんな風に言うあいつの態度が許せなかった。
ただ、それは僕と惟を除いてだ。
「じゅ、十四メートル五十センチ・・・。な、なんてこった彫野。お、お前、ほとんど中学の日本記録と同じだぞ・・・。」
「ちっ。」
それを聞いて、軽く舌打ちした。自分より上がいるとわかって、かなりムカついたらしい。あいつの表情にも、それは、むちゃくちゃ表れていた。
「どうした?彫野、日本記録とほとんど同じなんだぞ。なんで、そんな顔しているんだ?」
興奮気味の先生の姿が、いっそう、あいつの態度を冷めさせた。
そのせいだろうか、あいつは突然、校舎に戻ろうとした。
「おい。どこに行くっ。」
興奮気味な声は、別の意味で興奮し出した。
「トイレ。」
その言葉と一緒に、とてつもない殺意に満ちた視線を、あいつは先生に放った。
その視線は、先生の後ろにいる僕たちも、恐怖で何も考える事が出来なくなった。
「あ、あぁ、そうか。トイレか。き、気をつけて行って来いよ。」
「はぁい。」
その視線とは正反対な、かわいらしい返事をしながら、あいつは校舎の中に消えていった。
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