哀しみの瞳
とっ、遠くの方で、何か聞こえたように思えた。



「もう、そこまでだ!その位でいいだろう!一人に対して、何人もの、相手が、卑怯だろう?」



「こいつの方から、ぶつかって来やがったんだぞ!」


「だからと言って、相手はもう、抵抗できないで居るんだ!死んでしまうぞ!!良いのか?」


怖くなってきたのか、数人の男達は、走り去って行った。


秀は、目は、腫れ上がり、口の中は、切れ血が沢山流れ出ていて、意識は、朦朧としていた。

「これは、いかんな!救急車だ!!誰か、救急車を呼んでくれ!!!」



気が付いたら、白い壁と、窓のカーテンが、ぼんやりと見えた。
身体中が痛くて、起き上がる事も、動かす事も出来ない。包帯があちこちに巻いてあった。記憶が、少しづつではあるが、戻ってきた。


60過ぎであろうか?知らない男性が、側に付き添っていた。



「気が付いたかね?」


(秀)
「はいっ、俺は、どうして、此処に?」



「君は、街中で、チンピラに絡まれて、ぼこぼこにされてたんだよ!」


(秀)
「俺は、酔っ払っていて、頭の中が、よく分からなくなって……」



「ぶつかったとかで。チンピラの、良い鴨になってしまってたようだ!」


(秀)
「助けて頂いたみたいですが…」




「ああっ、君は、まるで、死を待ってるかのように、無抵抗で、殴られ、蹴られ、あまりに酷かったから、止めに入った。」


(秀)
「………」


「まずは、自己紹介をしよう!わしの名前は、川野 甚一(かわの じんいち)と言う。チンピラを止めに入れたのも、少々、心得があるのでな!まぁ、命だけは、助かって、よかった!」


(秀)
「どうも有難うございました…見ず知らずの方に、ここまで、助けて頂いて……あっ、私の名前は、吉川 秀(ひで)と言います」



(甚一)
「酔っ払っているとはいえ、君は何で、抵抗もせず、声も出さず、逃げることもしなかったんだ?」


(秀)
「………」
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