哀しみの瞳
(甚一)
「人間ってものは、すべての事が、望み通りになり、すべての物を手に入れる事など、できはしないのだ。又、出来なくていいんだ!叶えられない部分や、足りないところがあればこそ、その悲しみを乗り越えたり、苦労を跳ね返す力を得たり、努力をしたりするのだ!それらすべてを、しなくて済むものなら、人間なんて、やめてしまえだっ!」



(秀)
「やめてしまえ!…ですか?」



(甚一)
「今のお前には、乗り越える事が出来ないと言うのか?」



(秀)
「まだ、乗り越える自信が無いのです。悲しみが……
日に日に、増して来るのです。何故か、言い様のない、恐怖で、崖の下へ突き落とされるような………」




(甚一)
「んんっ、わしに言えることは、一つ!
今を生きろ!とにかく、今を一生懸命生きてさえいれば、必ず見えて来るものがあるはずだ!わしは、今でも、そう信じている!……陽はまた昇る。だっ!」



(秀)
「陽はまた昇る。か………」



(甚一)
「ああっ、それと、来週の空手3段の昇進の方、大丈夫か?」



(秀)
「はいっ!それは…自信ありますから、大丈夫です」


(甚一)
「お前は、そういう要領は、頭と一緒で、良いんだなぁ!何なら、指導者の方も、目指してみるか?」




(秀)
「いいえっ!それは!……私の師は、一生、先生…貴方ですから」



秀は、今あの暗闇の世界が、現実にならなければ………それで、まだ、生きていけるのではないか、と思うのであった。
< 139 / 296 >

この作品をシェア

pagetop