哀しみの瞳
すると、そこには、先客がいた。ドアを開けるまでもなく、かなり興奮してそうな、女性の声が聞こえて来た。思わず聞き入ってしまう。


(女)
貴方は、何を考えているの?もっと、奈美さんの事も、考えてあげて頂戴!もうすぐ結婚するんでしょ?」


(小林)
「その話しは、まだ…決めていないんですから!僕は…」


(女)
「ここまできて、まだそんな事言ってるの?もっと自分の事も考えなさいよ!病気の研究に没頭するのもいいけど…」



(小林)
「母さん!僕は、医者ですよ!病気を直す為の研究なんです!自分の時間なんて無くても良いんですよ!そんなこと医者なら当たり前じゃあないですか?」


(女)
「でも、ここ2・3年の貴方は、普通じゃないわ!家にも帰らずに、此処で寝泊まりしたりして、食事も、どうしてるの?母さん、その事も心配してるのよ!奈美さんも同じよ!」



(小林)
「とにかく、今日は、もう帰ってください!仕事ありますから!」



(女)
「分かりましたよ!今日は帰りますけど、ちゃんと考えておいてちょうだい!奈美さんの事!」

「はあーん!」小林は大きなため息をつく。


60位であろうか、上品そうな女性が、慌てて出て来る。理恵と目が合った。
理恵は、一礼をするが、その女性は、知らん顔で通り過ぎる。


(コンコン)
「吉川です…」


(小林)
「どうぞ!入って」



(理恵)
「お客様だったんですね?良かったんでしょうか?」


(小林)
「気にしないで!聞こえてた?……まっ、いいから!早速だけど…急ぎで…ちよっと入院してくれないかな?」


(理恵)
「ええっ!入院って?」


(小林)
「んんっ、ちよっと、内科の先生にも相談されて、勿論専門の先生とも、話し合った結果なんだが。」



(理恵)
「検査入院って事ですか?入院とかじゃなく、薬治療とかではダメなんですか?」



(小林)
「そんなんじゃ、だめなんだ!!!」怒った顔で強く言った為に理恵は驚いた。
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