哀しみの瞳
秀一が出て行く日があっという間にやって来た。




皆が玄関に出て来ているのに、由理は、部屋から出て来なかった。


きっと、寂しくて、どう見送って良いのか分からないのであろう。みんなも、その事をよく分かっているので、誰も声を掛けないでいる。



秀一が、もう一度、家に入って行った。何をどう言ってきたかは、誰にも分からない…
秀一だけの、秀一なりの、別れの言葉を掛けて来たのだろうか…



秀一は、東京駅までの、一時間一言も話さなかった。


乗換えのホームで、美佐子さんと美紀さんは、ポロポロ涙を流して泣いていた。



秀一は、やはり、隠そうともせず、哀しげな顔を最後までしていた。秀も充分理解していた。自分にも、似た経験は、何度もしているのだから…………




家に戻り、由理の所へ行ってみると、眠っていた。さんざん泣いて、泣き疲れて眠ってしまったのだろう。枕がびしょ濡れになっていた。



由理13才
試練の春だった~
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