哀しみの瞳
秀は、どうしても、集中しないといけない時期を迎えていた。どうしても弁護士資格の国家試験をパスしたかった。それを一区切りとして、理恵の大学進学をサポートする事を考えてた。かなり無理もあった。夜も寝ずに机に向かいそのまま朝を迎える事もあった。



しかし、どうしても、一目理恵に会いたくて、ある日曜日の朝一番の電車に飛び乗った。

急いで理恵の家に行くと、おじさんとおばさんが、喧嘩をしている声が聞こえた。



「理恵が、どうしても、上に進みたいって、言ってるのよ!どうか、進ませてやって?」

「何で、あんなやつを、大学上げる必要があるんだ!高校卒業したら、働けばいいだろう?家には、浩一が居るんだぞ。浩一は大学行かすけど、理恵は高校で充分だろう!」


「理恵だって私の子供なのよ!お願いですからぁ!私だって、パートで一生懸命働いているんだし」




二人の会話を遮るように――


「お早うございます!」


「秀ちゃん? 久し振りじゃない?あらっっ、何か聞かれちゃったかしら、恥ずかしいわ!」

「何だっ、秀かぁ?さっさと、中に入れよ!」次郎は今まで怒っていた様子とはガラッと変わり、上機嫌な顔で出てきた。


「理恵は?」


「あーん、理恵ねぇ、今朝も早くに、沙矢ちゃんと、武さん達と一緒に図書館?あらっ、あの資料館の方だったかしら?もう日曜日になると3人いつも一緒みたいなのよ!勉強してるんだか、遊んでるんだか?」


「秀っ、久し振りなんだから、入って休んでけよ。待子、何してる!何か食うか?」


「いいえ、構わないで下さい。俺、理恵にどうしても話したい事あって来たんで」


「理恵の部屋で待ってる?」


「いえっ、俺も帰る時間があるんで、資料館へ行ってみます」


「何もそんなに慌てて行かなくたって……秀っ、家にも、行ってないんだろう!兄貴も心配してたぞ!ちょっとぐらいは、よってやれよ」


一礼だけして、秀は早々に立ち去った。
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