哀しみの瞳
「理恵?泣くな!お前が、泣いてたら、俺は帰れないだろう?」



「だって、ひでにっ、ひでに久し振りに会えて、うれしかったの」



「理恵!聞いて、ちゃんと聞いて!
俺は、国家試験合格したら、理恵の大学受験の為に頑張るから、理恵もそのつもりで、精一杯頑張って?そして、東京の大学をうけて。短期の部でもいいから、専門の知識を勉強するんだ」


「だって、理恵、進学の事、お父さんに反対されてるの。大学へは、行けないかもしれない、そのことで、お父さんとお母さん、いつも喧嘩してるし」


「何言ってるんだ!理恵がそんなことでどうするんだ!保母さんになるにしても、きちんと、専門の大学へ行って勉強しないと、なれないんだぞ!」



「うんっ、だけど理恵、お父さんとお母さんには、迷惑掛けれないし」


「とにかく、俺がまた、おじさんを、説得しに帰ってくるから、大丈夫!理恵は体に気を付けて、日頃の勉強を頑張るんだぞ!約束―いつもの…」



理恵はあの日の中野礼子の事を聞く事は出来なかった。その時はもう、二人にとってはどうでもいいことだった。


今度は秀の方から理恵をそっと抱き締めた。子供の頃より、成長しているものの、本当に細くて、小さい身体だった。ほのかに、昔嗅いだことのある、理恵だけの安らぐ匂いがした。

何か今までもやもやした気持ちが洗われる気がした。


理恵を心から、必要としているのは、この自分なんだと思った。こうやって、理恵を抱き締めているだけで、苦しみも、悲しみも、乗り越えられる気持ちになる。

理恵がどう思っているかなんて、分からなくても、自分の気持ちは、よく分かる。俺は理恵の事!大好きだ!理恵を従兄弟としてじゃなく妹みたいでもなく。
そして、何より俺が理恵に支えられているのだということを―――
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