好きで悪いか!
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「行ってきま~す!」

 バイト四日目の午後四時すぎ、リビングでパソコンと睨めっこしている母親の横をすり抜けて、玄関へと向かう。

 うちの母親は、シングルマザーで、自由業だ。
 パソコンにかじりついているのが、仕事。

 体裁のいい名前をつけるとしたら「専業トレーダー」「個人投資家」「投資アドバイザー」
 身も蓋もない言い方をするなら「ニート」だ。

 ただし、すごく稼ぎのいいニート。
 株式売買益と配当金で、毎月数百万円をコンスタントに稼いでいて、かつ株主優待品がじゃんじゃん届くし、株価予想を掲載している個人サイトでのアフェリエイト収入もある。

 最初からそうだったわけではない。
 少なくとも、私が中学に上がるまでは我が家は貧乏な母子家庭だった。

 コツコツ貯めたお金を元手に、株式投資を始めた母の才能が開花して、あれよあれよという間に「成金」になってしまったのだ。

 それは、私の人生にも影響を及ぼした。

 生まれながらにお金持ちというわけではなく、むしろ貧乏が染み付いているため、今さら品行方正になったりはできないけれど。
 お金のかからない、地元の公立高校に進学しようと思っていたプランが、母親の強い希望で変更されてしまったことだ。

 隣の市にある、有名な「お金持ちの子供が通う」私立高校。
 確かに憧れてはいた。自分には無縁の世界だと。



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