砂糖菓子戦争
え。と声を出そうとしたけれど、唇がそれを許さなかった。そしてそのまま視線をテーブルへと落とした。無造作にちらばっているストローの包み紙。汗をかいているコップの影。霧忌がどんな顔をしているのかも分からない。
俺は何も言えなかった。言わなかった。霧忌は話し続ける。

「甘露。お前は春夏冬さんの中学時代を知らないだろう?彼女の中学時代はそれはそれは大変だったそうだ。俺が言ったように、『性格目当て』で近づいた輩がいたらしくてね」

俺はまだ影を見ている。

「無論、彼女はなびかなかった。嘘を見抜いたから。何故見抜けたと思う?」

ゆっくりと顔を上げると、霧忌はにこりと笑った。

「…分からない」

俺がそう答えても、彼の表情は変わることはなくそのままの状態を保っている。
テーブルに肘をつき、笑う彼は案外様になっていた。

「嘘をついたまま過ごすと《ぼろが出る》とよくいうものだけど、考えたことはあるか?人は常に《ぼろを出している》んだ。この場合は最初から《ぼろが出ていた》といっても過言ではない。人が言葉をぽろぽろ発するように、『嘘を取り繕う』ものがぼろぼろ出る。つまりは分かりきっていたことなんだ」

「つまり?」

「…もう分かるだろ。最初から『性格目当てと思わせる』作戦は失敗なんだ。彼等の目は、脳は、正直なまでに彼女の容姿を見ていた。難しくいうと、

『性格』を見ようと『無理』をして結局自爆ってわけだ。めでたしめでたし」

『無理』という言葉に、ここまで重さを感じたことはない。そうか、そういうことだったのか。つまり結論から言うと彼女の中では『無理をした奴等』と『俺自身』は同一視されている。圧倒的なまでに、思わず喚きたくなるくらいに、彼女の中の俺は勘違いされている。
自分でも分かるくらいに気持ちが急降下してしまっていた。

そんな俺を霧忌はコップについた水滴で指を濡らしながらも楽しそうに、悪戯が成功したかのように笑っている。

それはもう、楽しそうに。
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