ほのかな香り
1章 出逢い

出会いは3月ーー
冬が終わったばかりなのに
もう桜のつぼみが開こうとしていた。
その日は高校入試の日。

櫻井色葉(さくらい いろは)は緊張した表情で机に向かっていた。
聞こえるのはえんぴつを走らせる音と、試験監督の先生の歩く音。

先生が隣を歩く。
若くて、背はあまり高くない。
短いが、ワックスで整えられた髪。
ふと顔をあげ見つめたその背中に
優しく爽やかな香りがした。


それは微かに残る、記憶。

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