虫の本
「納得したなら、片付けを手伝ってね」
そう話をまとめつつも、彼は一向に動こうとしなかった。
最低な神様だった。
今まさに自分で散らかした癖に、私に片付けさせるつもりなんだ!
「あ、待って。じゃあ赤い髪の子が言ってた栞とか本とかって──」
「一つ、面白い事を教えてあげようかな。この本について」
そう言って、先程のボロ本に視線を移す司書さんさん。
……何となく展開が読めてきた私の心に、嫌だなあ、聞きたくないなあ、という感情がわいてくる。
でも、大樹も聞かされたのだろうから、私だけ逃げる訳にもいかない。
丁寧にページをめくりながら、彼は淡々と語り出した。
「この恋愛小説、主人公は女の子だねえ。高校生。部活でスポーツをやっている」
「……陸上で長距離?」
「そう。彼氏とは幼い頃からの馴染みと言うか、腐れ縁。お約束の設定だねえ」
「ちゃんと付き合い始めたのは、大会の応援に来てくれた時から。でも、本当はね、本当は……」
「もっと前から、ずっと前から好きだった、ですか? 小さい頃、暗くて狭い路地裏で迷ったその頃から?」
「…………」
指摘されてた事で改めて腐れ縁の年季を認識したけれど、我ながらなんて乙女チックなんだろうか。
思わず笑ってしまいそうになる。
しかし、何故かそんなささやかな想いすら叶わないのだ、あの世界──いや、この本の中では。
「何故? そんな事、本が壊れてしまったからに決まっているじゃないか。ここまで壊れてしまうと、僕にも修繕のしようが無い。ドールの皆にも困ったもんだ」
大して困ったような素振りも見せず、どこからともなく取り出した鞄に、ボロボロになった本を仕舞い込む司書さんさん。
私はそれを、ただじっと見守っていた。
あの本──私の大事な物が詰まっていた世界を、彼はどうするつもりなのだろう。
……決まってる。
彼は修繕のしようが無いと言った。
それは神に見放され、滅び去った世界と同義である。
つまり。
「蔵書は増える一方だし、主人公不在の物語に価値は無いからねえ。直せないのならば、もちろん破棄するよ。ゴミとして」
ゴミとして。
破棄するよ。
そう話をまとめつつも、彼は一向に動こうとしなかった。
最低な神様だった。
今まさに自分で散らかした癖に、私に片付けさせるつもりなんだ!
「あ、待って。じゃあ赤い髪の子が言ってた栞とか本とかって──」
「一つ、面白い事を教えてあげようかな。この本について」
そう言って、先程のボロ本に視線を移す司書さんさん。
……何となく展開が読めてきた私の心に、嫌だなあ、聞きたくないなあ、という感情がわいてくる。
でも、大樹も聞かされたのだろうから、私だけ逃げる訳にもいかない。
丁寧にページをめくりながら、彼は淡々と語り出した。
「この恋愛小説、主人公は女の子だねえ。高校生。部活でスポーツをやっている」
「……陸上で長距離?」
「そう。彼氏とは幼い頃からの馴染みと言うか、腐れ縁。お約束の設定だねえ」
「ちゃんと付き合い始めたのは、大会の応援に来てくれた時から。でも、本当はね、本当は……」
「もっと前から、ずっと前から好きだった、ですか? 小さい頃、暗くて狭い路地裏で迷ったその頃から?」
「…………」
指摘されてた事で改めて腐れ縁の年季を認識したけれど、我ながらなんて乙女チックなんだろうか。
思わず笑ってしまいそうになる。
しかし、何故かそんなささやかな想いすら叶わないのだ、あの世界──いや、この本の中では。
「何故? そんな事、本が壊れてしまったからに決まっているじゃないか。ここまで壊れてしまうと、僕にも修繕のしようが無い。ドールの皆にも困ったもんだ」
大して困ったような素振りも見せず、どこからともなく取り出した鞄に、ボロボロになった本を仕舞い込む司書さんさん。
私はそれを、ただじっと見守っていた。
あの本──私の大事な物が詰まっていた世界を、彼はどうするつもりなのだろう。
……決まってる。
彼は修繕のしようが無いと言った。
それは神に見放され、滅び去った世界と同義である。
つまり。
「蔵書は増える一方だし、主人公不在の物語に価値は無いからねえ。直せないのならば、もちろん破棄するよ。ゴミとして」
ゴミとして。
破棄するよ。