お隣さん。








そっと自分の頬をなぞり、涙をすくう。

たった一粒のそれは、拭ってしまえばそれで済む。



俺は、泣いている場合じゃない。





聞こえる泣き声はきっと今日、止むことはない。



そして、明日もその先も。






だから俺は。

明日じゃなくて、明後日から。



いつも通り、おすそ分けをして。

気負われないような会話をして。

……たまに、笑いかけてみよう。





終わりから始まるものもあると、証明してみせる。



これから、始めるんだ。







理由もきっかけも意味もない。



ただの貴女との日常が愛おしいと思うから。






「──安藤さん」











格安マンションの3階の片隅で。

俺はお隣さんに恋をしている。





               fin.






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